航空写真提供:菅野印刷興業(株)

 

【旅のはじまり】

飛行機の窓からは眼下に、深く切れ込んだ山ひだに水を湛えたヒスイ色の湖と巨大なアーチダムが眺められた。黒部川の川筋は?と追えば、驚くほどのあっけなさで平地へと落ち、みごとに開いた扇状地を貫いて海へと消えている。 日差しが強い富山空港からレンタカーを駆って黒部市へ。日本で一番うつくしいといわれる扇状地は実りの秋。のびやかな黄金色の大地の向こうに迫り立つ峯々に、ぞくりとする魅力があった。

【アプローチ】

黒部市へ(黒部市観光協会)
入善町へ(入善町役場)
宇奈月町へ(宇奈月温泉観光協会)

【河川概要】

源流:北アルプス中央部鷲羽(わしば)岳(2924.2メートル)
全長:85キロメートル
流域面積:682平方キロメートル
流域人口:約56,000人
流域関係都県:富山県
旧称:あばれ川・四十八ヶ瀬・いろは川

下流でこの大きさ?黒部川丸石
山岳地帯の石が下流につく頃に直径20センチ!ほどの丸石に

流路の80%が山岳地帯

北アルプスのほぼ中央から流れ出た黒部川は、立山連峰と白馬岳・鹿島槍ヶ岳を連ねる後立山連峰に挟まれ、深さ最大1,500メートルの黒部峡谷を削って約68キロ間を駆け下る。一変して、宇奈月町愛川で扇状の大平野へと入るが、下流域に至っても川原の石は大きく、一般 的な流程でいう中流・下流の定義が難しいのが黒部川の特徴だ。流域の平均傾斜は36度。年平均降水量 は全国の一級河川の中でも最大級。あまたの渓流や、毎冬積雪5メートルを越える山々の万年雪が年間を通 じ豊富な水量をもたらしている。

【今だ人をよせつけぬ黒部川】

黒部川に沿って峡谷を容易にさかのぼれるのは、宇奈月からトロッコ電車を利用して欅平まで。ここから上流の黒部ダムまでは、かろうじて絶壁の登山道が通 っているだけだ。山中にトンネルと堅坑(エレベーター)を繋いで貫通 した黒部ルートもあるが、関西電力専用の輸送施設のため一般は利用できない。黒部ダムへ行くには、富山・立山と長野県大町をつなぐ立山黒部アルペンルートを利用するしかない。もとより、源流部の3,000メートル級の山々や、激しい流れが削ったV字谷の秘境は上級登山者だけに開かれた世界だ。

【黒部川がつくった日本一の扇状地】

一般に扇状地は、川が山岳部から平野部に出て流れの運搬力が落ちる上流と中流の堺にできる。ところが黒部川の場合は、上流部の終わりがいきなり海に落ち込んでいるため、運ばれた土砂が海岸部に堆積して世界でもめずらしい「臨海性扇状地」ができた。扇の半径は13キロ余り、面 積は約120平方キロメートル。美しい円弧が描かれた要因は、土砂が落ち込む富山湾が非常に深く、土砂が風や海流に流されず均等に広がったこと。扇の要にあたる宇奈月町愛本の地質が硬い珪長岩(けいちょうがん)だったため、さしもの急流もここを削り広げることができず、狭窄部分から勢いよく広がったためだ。

【奔放に暴れていた黒部川】

自らが形成した扇状地で幾筋にも分かれ、大水のたびに流路を変えていた黒部川は、肥沃な土壌、豊かな水をもたらす恵みの川でもあった。暴れる川を治め田畑を拓こうと、治水事業が始まったのは戦国時代といわれる。黒部川がようやく一筋の川となったのは明治中頃。扇状地には今も多くの水神様が祀られている。

愛本堰堤
ごうごうと流れる用水は水の豊かさの象徴

網の目のように張りめぐらされた用水路 

全域で米作が盛んな扇状地には、江戸時代から受け継がれている用水もいくつかある。十二貫野用水は1841年(天保年間)、高台のため開墾が遅れていた高台の南部丘陵地帯に、黒部川上流の支川から水を引いた用水で、取水位 置、サイフォン構造や水の分配方法など、当時の知恵と工夫には驚くしかない。
一方昭和初期、分散していた本流の取水口を、宇奈月愛本にまとめたのが「黒部川合口用水」。愛本堰堤で一括取水した水を左右岸の合口用水路に流入させ、幹線用水路へ分配するもので、全灌漑面 積約8,870haのうち、ほぼ75%を供給している。基本的には川からの取水だが、伏流水豊かな段丘なので、上部の用水の水は下の用水へとふんだんに流れ行き渡り、枯れることがない。「贅沢な」と、見学に来た他県の農業家誰もが羨ましがるそうだ。

黒部川・水田開発の苦労と工夫

扇状地の田んぼは、黒部川が運んだ石混じりの砂地のため浸透性がよく、大量 の水を必要とする。その上、灌漑する黒部川の水が冷た過ぎて冷水害を受けることしばしば。反当りの収穫高は県下最低だった。そこで宇奈月町では全国ではじめて、赤土を水に溶かして水路から水田に流して沈殿させ、底に膜をつくる「流水客土」を昭和26年から36年まで実施。田んぼの減水量 の大幅減少、田面温度の上昇などの効果で、客土面積の多い地域では200%以上も収穫が伸びたそうだ。

河川段丘と用水を利用した平地の発電所

水路が多く住居の周りで耕作可能なことから
水田内に散った家々を「散居」と呼ぶ。
屋敷林「かいにょ」のある入善の農村風景。

 


河川段丘とは、土地の隆起と、河床をけずる川の流れによってできた階段状の地形のこと。この10〜20メートル余りの落差と、農業用水を利用した水力発電所が黒部川扇状地の左右岸に6ヵ所ある。
入善町「下山芸術の森 発電所美術館」は、取り壊される予定だった大正期のレンガ造りの発電所を美術館に改装したもの。建物背後には、杉を植林した森が10キロほど細長く続く河川段丘「はば」があり、「はば」の上の用水から水を落とす水圧管路が見られる。館内の発電用タービンなど往時のままに残る設備は、まさに現代アート。

下山芸術の森 発電所美術館

杉沢の沢スギ

海に程近い扇状地涌水地帯に発達していた杉の多い林「杉沢」。約45ヘクタールあった杉沢のほとんどが水田に変わったが、住民の活動で小さな小さな自然林が残された。「杉沢の沢スギ」は全国でただ一ヶ所、自然の沢スギが自生し、人の手で保存されている林だ。「沢スギ」は垂れた小枝が、地面 について根を下ろし成長する。スギは本来水を好まないといわれるが、杉沢の場合、常に水が流れ豊富な酸素が供給されているのがよいらしい。通 年涌水が流れる林の中は気温が安定し、冬も温かいので南方のシダはじめ、川の氾濫が運んだ奥山の植物など、山地性と暖地性の植物が混在している。国の天然記念物・全国名水百選に指定。

「沢スギ自然館」 入善町吉原 0765-72-1710
沢スギ自然館(入善町役場WEBサイト内)

 

黒部市役所
黒部市上下水道課
黒部市観光協会
入善町役場
宇奈月町役場
宇奈月温泉観光協会
宇奈月町商工会
うなづきダム情報資料館 大夢来館
黒部ダム
国土交通 省 北陸地方整備局 黒部河川事務所
黒部川フィールドレポート'00(黒部河川事務所)
立山砂防事務所

 

黒部川峡谷と扇状地・旅の栞大峡谷を行く扇状地の豊かな水自然に返す水

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