田野さんがカヌーを始めたきっかけは、埼玉代表選手であったスラローマ―のご主人と結婚したばかりの頃、競技大会を見に行き、流星のように、目の前を通り抜けて行ったカヌーが、「まるで妖精が舞うみたいに、しなやかで、美しく見え、こんな遊びがるのかとすっかり魅せられて」しまったからだ。始めはワイルドの選手、そしてスラロームの選手としてみるみる頭角を現した彼女は、国体の代表選手に選ばれた。
その当時、社会に出たり、結婚をきっかけにカヌーの世界から遠ざかってしまう仲間達の姿に、自分はいつまでもこの世界に関わっていたいと一念発起。まだ現役選手だった平成2年、日本体育協会の公認コーチの資格を取得し、翌3年、「長瀞カヌースクール」を開校した。
今でこそ、流域にこういったスクールが林立しているが、このスクールが第一号。釣師たちやライン下りの遊船からのクレーム処理係として苦労も多かったという。でも、「皆、川が好きなんだから仲良くしょうよ」が彼女の合い言葉。誰にでも好かれる天性の明るさと竹を割ったような性格、漁業協同組合の株主になって同じ立場から話し合うなどの努力で、いい関係づくりが実現していった。
長瀞の岩畳にある田野さんのスクールは、仲間といっしょに作ったログキャビンが目印。教室の基地だが、のんびりと一日を過ごすためだけにやって来る近所の人や仲間の姿が絶えない。スタッフを沢山確保しているし、料金もリーズナブル過ぎるし、競技選手になった生徒の面倒も見ている。「カヌー普及・ボランティア」といってもいいくらいだが、皆野・長瀞に腰をすえ、川が好きで好きでたまらない田野さんは気にしない。障害のある人にもカヌーを楽しんでもらいたいと、最近(財)日本障害者スポーツ協会の中級指導員資格を取得し、さいたま県立長瀞青年の家カヌー非常勤講師も勤める地元の人気者だ。