序章

沖縄へ。

高台にのぼれば、視界いっぱいの青い地平線。白い砂浜。期待通りの光景に目をこらせば、小さな川が海へとそそいでいる。 沖縄県には、300余りの川があるという。駆け足で南から北へと川を求めて、走った。

「沖縄に川らしい川はありません。側溝ですよ」「人と川のかかわりねえ・・・?」出かける前に仕入れた情報は、ネガティブなものが多かった。今まで取材して きた川の概念では語りきれない、沖縄本島ならではの川の姿と水事情。側溝といわれ ても仕方ないような川もあったが、全国に自慢できる豊かな森に抱かれた渓谷もあった。近代化にともなう自然破壊と同時に、人々の努力で少しずつきれいになってきた都心の川、絶滅した魚が蘇った川もあった。島の南部と北部で大きな違いはあるが、光と影の中を、個性豊かな川が人々の営みとともに流れていた。

河川文化ディスカバー・フォーラム in 沖縄
「河川文化・河川と地域のつながり」 川はすべての生命の源


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本土との徹底的な違い



「短くて急峻」は、日本の川全般の特徴だが、沖縄県の場合は、全長が10kmを越えるのは11河川で、最長は西表島にある浦内川19.4km、本島は福地川の13.8kmだ。ほとんどの川は5〜10kmくらいの長さしかない。意外にも、国が河川管理に直接かかわっている川は一つも無い。河川全てが、2級・普通 河川だからで、県や自治体が、閣府政策統括官沖縄振興局指導のもと管理を行っている。

内閣府「政府の沖縄政策」 内閣府政策統括官(沖縄政策担当)沖縄振興局

国道58号線を走ると、右手には海。ふと左手を見たら、ダムの提体がすぐ脇にそびえたっていた。今までのイメージからすると、ダムや水源は、海から川をたどった山の奥懐にあったのだが、沖縄では、宅地造成されている場所が、実は水源ということもある。本島の一番高い山は北部の与那覇岳503mで、海までの直線距離は、6キロ強しかない。山は低くても勾配が急なので、北部には、海のそばに、驚くほど深い渓谷や雄大な滝がたくさんある。海の干満が及ぼす影響も、長さのある川の比ではない。汽水域特有の生きものが上流にさかのぼって見られるし、マングローブなどが生い茂る亜熱帯特有の河口風景がエキゾチックだ。

水を吸うスポンジのような島

160の珊瑚礁の島々からなる、沖縄。本島南部はじめ、地質的に石灰岩で出来ているところが多く、降った雨水がすぐ地下に浸透してしまうので、地表に川ができにくい。中には、水の流れが途中で途切れ、また現われる川もあるくらいだ。一方、地面 にしみこんだ雨水は地下に貯水池や流れをつくり、それが湧き出て、井戸泉(カー)や樋川「ヒージャー」を生み、沖縄独自の水文化を育んできた。

注)主に自然の湧泉を利用した共同井戸が「カー」。岩盤の奥の中の水脈からかけ樋で水を引き、水溜を造っているのを「樋川=ヒージャー」と言う。

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イメージ写真 沖縄の水事情


水は命

沖縄は高温多湿、台風と干ばつに悩まされる風土だ。干ばつが続けば、干上がってしまう地下水も多い。古来、人々は智恵をしぼって水を得、ゆえに、天と地下からの水、流れる川に敬虔に触れ、川や井戸泉、樋川、雨水(天水)との営みを通 して、 独自な水への信仰、祭りごとなどをつちかってきたといわれる。

北水南送

現在本島では、北部にあるダムや川などから取水された水が、水道用水として、全人口の90%が集中する中南部に送られている。ひとつの川の源流が水源となって流域を潤すのではなく、北部の山原(やんばる)の森林を「水がめ」とし、水源部以外の、市町村に水が送られているわけだ。いまや、「やんばるの水」といえば水道水のこと。日本百名泉「垣花ヒージャー」はじめ、井戸泉や樋川が豊富に涌き出る玉 城村でも、水道水が主役だ。沖縄県企業局による送水は、水管やトンネルなどを利用して行われるが、沖縄は南北に長く、水源と消費地が遠く離れているため、増圧ポンプ場や調整池などの施設が数多く建設されている。 まるで、見えない川につながれた、ひとつの大きな流域が沖縄本島にあるかのようだ。 

<水源別取水量> ダム水(65.8%) 河川の水(22.1%) 地下水(10.6%) 海水淡水化水(1.5%)

沖縄県企業局
沖縄県企業局 おきなわの水
  子供向け沖縄の水道について紹介しています。

「水なし県」からの脱却

沖縄県の水道普及率は99.9%で、全国第二位。しかし、現在のように安定した水供給が実現するまでには、厳しく険しい道のりがあった。長期断水に耐えかね、他県から舟で水を運んだ昭和38年の大干ばつ。昭和時代末の全国最長326日間の給水制限などの経験から、自衛として、家の屋根には水タンクを付けるのが常識となった。平成元年を最後に、給水制限は行われていないが、これも昭和47年の本土復帰以降、北部ダム事務所が推進した水資源開発事業の成果 の現われだ。

治水・利水事業の恩恵

沖縄県の年間降雨量は、全国平均の約1.3倍だが、降った雨は地面に吸収され、あるいはすぐさま海へと流れ去る。しかも人口密度が本土の3倍近くもあるため、年間の一人当たりの降雨量 は、平均の6割に過ぎない。気候的にも不安定な水事情は、これまでの北部5つの国ダム建設はじめ、河川からの取水、海水淡水化施設設置などでようやく安定してきたわけで、今後の近自然型河川工法導入による水づくり、環境づくりに期待がかかる。一方、台風や梅雨時の豪雨、 河川の地形的特徴から、土砂崩れ、増水・浸水被害を受けやすく、治水面 からもダムの役割は大きい。

ダム管理情報  沖縄総合事務局 北部ダム統合管理事務所
工事中・計画中のダム情報   内閣府沖縄総合事務局 北部ダム事務所

開発の光と影

この40年余りで2.5倍に増えた人口、産業の発展、リゾート開発、生活変化などによる水需要増大。加えて中南部の水環境の汚染が進む中、今後の水の確保は大きな課題といえる。開発が中南部に恵みをもたらす一方、森や川・海の自然破壊が進んでいるのも現状だ。沖縄から自然という 財産を取ってしまったら、観光地としての魅力も、あの闊達で情に厚い「うちなーんちゅ」気質も薄れてしまうだろう。北も南もない。島はひとつで、大きな運命共同体なのではあるまいか。川をたどりながら、流域の自然と人々の声から学び、共に考えてみたい。

「うちなーんちゅ」とは沖縄の人が自分達を指して呼ぶ言葉。沖縄人

雨水利用 多様な水源の活用こそ  沖縄タイムス社説 2002.3.15

参考文献: 平成13年度沖縄企業局概要「沖縄の水」
「おきなわの川」 幸地良仁 むぎ社
「川は訴える」 寺田麗子 (有)ボーダーイング

 


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