西江さんは1937年、沖縄県最北の離島・伊平屋村(いへやそん)の生まれ。本部町の病院に勤めた後、ナース不足を解消するため、「北部看護学校」の設立に係わった。学校の机や椅子は、熊本森林組合の協力を得て、間伐材を使った手づくり。既製品よりはるかに高くつく設備投資にしぶる関係者を、「心と身体のケアをする人は豊かな心を養わねばならない。合成板の机で学んでそれがかなうか」と説得した熱い心のウチナーンチュなのだ。

講演者やパネラー、コーディネイターとして、地球環境問題やその解決糸口への提言を続けてきた西江さんが、グループエコ・ライフを立ち上げたのは1986年。「かけがえのない地球」を後代に引き継ぐために、循環可能な社会環境づくりの必要性を感じたからだ。現在は、福祉関係はじめ、日本めだかトラスト協会やリュウキュウアユを蘇生させる会等の理事として、またグループエコ・ライフの多様な活動や実験農場の経営、拠点となるエコステーション建設に多忙な毎日を送る。島を東奔西走する愛車の燃料は、毒性が少なく再生可能、大気中の二酸化炭素を増加させない、テンプラ油を再生したバイオディーゼル燃料だ。

 


ぎらぎらとした太陽の下で、大きな鍬を振り上げては黙々と田を耕す青年の姿が眩しい。


高々と積まれた「あぜ」が取り囲む田んぼには、ベージュに濁った水がとろりと満ちている。ここ、本島北部国頭奥間の1100坪の実験農場では、外来種の生きものを完全にシャットアウトする田んぼづくりが行われていた。

沖縄は、どこへ行っても繁殖力の強い外来種の生物が、本来の生態系を犯している。田んぼも同じで、水を引くことで外来種の魚が紛れ込んで繁殖し、メダカ、タニシ、ドジョウなどの姿が消えてしまう。それを防ぐ実験としてここでは、導水する水を石や砂で完全にろ過している。田んぼの真ん中の貯め池は、田から水を抜いた時に、生きものが逃げ込むためのもの。増水時に周囲から外来種が入り込まないよう田の外周の土手はさらに高くし、ガマやなつかしい雑草などを植栽する作業も進行中だ。

有機農法を用い、「耕さない、甘やかさない」が基本。刈り取った後も、田を起こさず、そのまま水を張っておくのだそうだ。2002年春には、子どもらを集め、稲が植えられた田んぼで、雑草とりやメダカの観察を行った。「環境学習は農業体験が基本。子ども達に作業を手伝わせ、楽しみながらの体験から食糧問題も考えさせたい」。西江さんの構想がひろがる。

【沖縄の米作り】 1970年代前半までは、名護市、国頭村は沖縄一の米どころとして、川の水を利用した稲作が盛んだった。今では、埋め立てや、換金作物への転向で、かつての水田風景は消えつつある。
【あぜで赤土流出を防止する】 珊瑚礁 を死滅させる赤土の流出。原因は、森や流域の開発、整備など様々だが、復帰後に進められた農業基盤整備の影響も大きい。大地に降った雨水を、コンクリの排水溝から川や海に直接流すという整備が、沖縄の土壌にそぐわず、赤土を一気に海に運ぶことになってしまった。土壌の流出は農業が土を失うことも意味する。あぜをつくることで、表土流出を防止する田んぼや畑づくりの実証をしている西江さんは、完全に防止できると語る。
いつまで続く青い海
「水の中の生活事情」在来種と外来種について
沖縄総合事務局 農林水産部

 

 


サトウキビ畑の続く平坦な大地の真ん中に、みどり濃い一角はここだけだ。
アイガモがヨチヨチと列をつくって歩いている。


同じく国頭奥間にあるこの農場は、うって変わって草ぼうぼう。歩き回ってみる。湿原のような部分、池もある。緑のクッションがやわらかく足元に沈む。なつかしいにおい。虫が飛び、風が騒々しいカモの鳴き声を運んでくる。かつての農村風景のミニチュア版だ。

五感を目覚めさせてくれたこの農場は、西江さんが仲間と共同で運営している。昔の里山の再生と、人々の暮らしが同時に成り立つことを実証するのが、この循環型農場の目的だ。「自然」に対して手を加えないから、在来種の植物で満たしたいと思っても、ホテイアオイやミズレタスなど外来の植物がどんどん増えて困っているそうだ。

ここの水田で西江さんはメダカを繁殖させている。日本各地で昔から身近な生き物として親しまれてきたメダカだが、平成11年、環境庁が発表した改訂版レッドリストに絶滅危惧種として掲載されるなど、全国的に絶滅の危機に瀕している。沖縄も例外ではない。生きものが教えてくれる環境の変化、シグナルとしての生きもの達に、西江さんは目を向ける。

アイガモの一羽は足が不自由だった。それでも仲間の後を追い、マイペースで付い て行く。ここが特別な環境だからか・・・。しばらく眺め、その命は許される限りこ こにいていいのだ、と気付いた。輪のように廻り、循環する自然世界。その一点とし ての存在の謳歌。循環する命それぞれが負うもの、はかなさと確かさ。だからこそ、 ここは、こんなにも居心地よく、温かい。

 

【2002年 日本めだかシンポジウム沖縄大会】
日本めだかトラスト協会が理事の西江さんを中心として、国頭村比地公民館で12月に開催したシンポジウムは、県内外から130名以上が参加。シンポジウムでは、外来種の影響からメダカを含めた在来種を守るための環境づくり、種本来のかたちの保全を目的とした放流のルールづくり等を、学者やメディアを巻き込んで進めることを再確認するなど、めだか保全に新たな展開を示した。二日目は、愛知教育大学名誉教授岩松鷹司先生と共に、西江さんの田んぼや、やんばる野生動物保護センターなどを見学した。
「メダカ」 岩松鷹司MEDAKAFISH HOMEPAGE
日本めだかトラスト協会

 

 
たとえば、日常の生活から見てみよう。生ゴミも排水も、排泄物でさえも適切な処理で循環利用できる。エネルギー利用も、太陽光や風力であれば自然の循環の一部を頂くこと。水もしかり。可能な限り雨水を生活に使えば、水循環の原理からはずれることがない。
子どもを対象とした環境学習は、なにも子どものためだけにあるのではない。生まれた地域の自然循環を身体で学ぶ時、そこでは、経験をつんだ地元の大人が手助けをする。指導する大人たちが、自らを省みながら、子ども達からどれだけ学ぶかは想像に難くない。これは人の循環だ。
エコツーリズム、ウェルネスプログラムという体験型メニューも予定されていて、農業や工芸などの作業やセラピーなどを体験できる。これは自分の人生を味わいなおすきっかけともなるかもしれない、大人のための体験学習だろう。

グループエコ・ライフの拠点として建設中のエコステーションを、本部町伊豆味に訪ねた。右の写 真、移築真っ最中の 古い沖縄の民家がそれだ。傍らには、ちゃあんと、雨水を利用したメダカ池がある。オオシマゼミの声が降り注ぎ、古いカー(湧き水)、ヒカゲヘゴの群生、たわわに実るシークァーサー、夏には蛍、という環境だ。 敷地を提供してくれた西江さんの友人が経営する「やちむん喫茶シーサー園」に立ち寄る。沖縄の古い家屋そのまま、かわら屋根の上には様々なシーサーが飾られ、宵闇に溶け始めている。靴を脱ぎ、裸足になった西江さんは二階の縁から足を投げ出す。遠くを見ながらみかんジュースを飲む西江さんが、沖縄の門に据えられたシーサーに見えてきた

●グループエコ・ライフ
住所:浦添市内間4‐13‐8 電話:098‐877‐6620
●エコステーション
住所: 本部町字伊豆味(やちむん喫茶シーサー園隣) 電話: 0980-47-5778
●やちむん喫茶シーサー園
住所: 本部町字伊豆味1439  電話: 0980-47-2160  営業: 11時〜19時 (月定休)

参考文献:「海は泣いている」 吉嶺 全二著 高文研

 


沖縄・玉城村沖縄・ガーブ川沖縄・源河川沖縄本島・嘉手納漁港沖縄を生きる沖縄・MAP

pick up 川