命の水 玉城村


石灰岩に覆われているところが多い本島中南部では、地上からしみこんだ雨水が地 下の水脈となって蓄えられたり、湧き出すのが主な水源だ。水道がひかれるまで、 人々の生活用水は、天水と湧水、塩分を含むことの多い井戸に頼り、飲み水は水売りから買う家庭も多く、火事や伝染病など水にまつわる不安の種は尽きなかった。(参照:沖縄の水事情 ) だからこそこの地では、命の糧である水が湧く泉や井戸を、神が宿る場所として大切にする独自の文化・魂が育くまれている。
【天水】
天水とは雨水のこと。降る雨を桶などにためて利用する。雨水はボウフラがわいてくるので沸かして飲んだ。ボウフラがいれば腐っていないという目安もあった。
【沖縄言葉と川・湧き水・井・井戸・樋川】

川はカーラ。湧き水をカー、ひいては、湧泉や川から用水を汲み取る所も井(カー)という。井戸は地面 を掘って地下水を汲み取るようにしたもの。岩盤の奥の中の水脈からかけ樋で水を引き、水溜を造ったものが樋川(ヒージャー)。

垣花樋川を訪ねる

【玉城村(タマグスクソン)】
沖縄民族の先祖といわれる、アマミキヨ族が初めて上陸し、住んだと伝わる玉 城・知念。琉球の歴史はこの地から始まった。「グスク」と呼ばれる城の史跡は20ヶ所余り。18の部落のいたるところに湧き水や井戸があって、その数は120ヶ所以上、平成8年国土庁から「全国水の郷」に認定されている。今琉球最古の古城跡といわれる玉 城グスク(たまぐすくぐすく)含め、霊場として、巡拝する東御廻いなど、神拝の行事が今も生きている地域。

グスクと水の里 たまぐすく村ホームページ
グスクや湧き水など沖縄情報の字引 「美ら島」

シーサーが守る玉城村役場
写真

石の坂道とナカユクイ石
写真

海が広がる台地に出た
写真

強い陽射しの中、玉城村役場に立ち寄った。青い空と白い舎、レンガ色のシーサーが描くコントラスト、思い思いのアロハ姿で働く職員の姿がいかにも南国らしく素敵だ。 村の東のはずれ近く、岩を切り開いたかと思わせる垣花ヒージャーの入り口に立つ。緑の影も濃い。細くて急な石畳の坂道を、足場を定めながら下った。道々、「水を汲んだ桶を頭に載せ、集落まで運び上げるのは女の仕事で、この中休み(ナカユクイ)石に腰をかけ、一息入れたのですよ」と教えてもらった。女の腰になじんで、ほどよく窪んでしまったように見える中休み石は、幾度の労苦を受け止めたのだろう。30mほど降りて行くと視界が開け、眼下に美しい海が広がる台地に出た。垣花ヒージャーだ。

この奥から湧き出ている
写真

苔むした石のかけ樋
写真

イキガカー
写真

うっそうと茂った林の中腹から泉水が湧き出ている。全国名水百選に選ばれた水だ。右から出る水は「男川」(イキガガー)。苔むした石のかけ樋を、湧き水は伝い流れ、四角く切られた溜まりへ飛沫をあげて注いでいる。左に行く水は女性専用で「女川」(イナグガー)と呼ばれ、一段高い所にあるのは覗き見をされないためだとか。かつて人々はここで水浴びをし、洗濯をした。その二つから流れる水は更に下へと落とされ、馬に水を飲ませたり、洗ったりした溜まり「馬浴川」(ウマアミシー)へ。そして更に水は下に流れ、田んぼを潤した。

「馬浴川」(ウマアミシー)
写真

石畳に這う導水管
写真

玉城村役場の永田さん
写真

台地はこざっぱりと整えられ、雑草も生えていない。清掃等は周辺の「字」が自主的に行い、自治体は関与していないそうだ。部落は、ここから導水した水を利用してはいるが、今では100%の家庭が水道水(やんばるの水)に頼っている。稲作農家も減った。若い人の間では、樋川の水を用いる折々の儀式はすたれ、米軍基地やレジャー施設などの影響で水質が落ちたとも聞いた。しかし、この空間とあふれる水が、祖霊や神々を敬い、水、ひいては日々の無事に感謝を捧げてきた先人の心を、今に伝え続ける、聖なる場所であることに変わりはない。 もう一度樋川の水を口に含み、来た道を登る。水遊びの身支度をした少年が、おじいさんとはしゃぎながら坂を下って来た。

 

水と祈り

写真沖縄の集落は、泉・井戸・川と密接な関係を持ちながら発展したので、人々の歴史や文化、暮らしを知るための足跡は、各地の信仰の対象となっている「拝井泉(ウガミガー)」に残されているといわれる。人々にとって、水は深い意味と力を持つ、特別 なものだった。
井泉を拝むことを「カー
メー」という。赤ちゃんが生まれたときの産湯を汲むカーは「産井戸(ウブカー、ウビカー)」と呼ばれ、集落や一族を守る「聖なる水」とされた。 四季折々の行事では、ウブカーや、「神御井」(古泉・カミウカー)を拝み、水に対する感謝や村や一族の健康・豊作などを祈願した。 ウブカーの水を指で額に付ける「水撫で(ウビナディ)は大切な儀式であった。婚礼の時は、花婿のウブカ−の水で新郎新婦のウビナディをする習わしもあり、死水としても使われた。
聖なる井泉の近くに祀られた「御嶽(ウタキ)」は、村落の道祖神であり、海と空が交わる水平線のかなたの神が降臨するところ、聖地を遥拝する神聖な場所だった。

【字・垣花のこと】
垣花(カキノハナ)は、人口450人余りの集落で、湧き水や泉が7箇所から湧き出している。部落が高台にあるため、戦後も部落の下にある樋川から水を運び上げていた。当時垣花には嫁にやるな、といわれるほど不便ではあったが、美人の多いところとして知られてい た。 この地域のカーとしては、イキカガー、イナグガーの総称で呼ばれる垣花樋川が有名で、初ウブカーなどの拝所となっている。この下方には、ウミアミシガー(ウマアミシー)、ウワガー(豚をつぶして洗ったといわれる)、クワ―ガガー(カーとしては利用されていないが、現在は初ウビーの拝所)がある。この他には、エイタイジョウ井泉、イリジョウグラ井泉などがタンクを設置して復元され、初ウビーの拝所となっ ている。

沖縄の年中行事・祭りなど 「沖縄探訪」 (野乃花商会ホーム―ページ)

参考文献:「グスクとカー 水の郷」沖縄県玉 城村役場財政企画室
     「沖縄のナ・ン・ダ」沖縄ナンデモ調査隊著(双葉文庫)
     「水浪漫 10号」 (社)沖縄建設弘済会


沖縄・玉城村沖縄・ガーブ川沖縄・源河川沖縄本島・嘉手納漁港沖縄を生きる沖縄・MAP

pick up 川