|
「風土工学」【1】10周年記念のシンポジュームがさる9月22日に中央大学駿河台記念館で行なわれた【2】。沢田敏男京都大学元総長、中村秀雄武蔵工業大学学長、松尾稔名古屋大学前学長、加藤尚武鳥取大学名誉学長(前日本哲学会会長)、青山俊樹水資源機構理事長(元国土交通
省事務次官)という豪華メンバーによる講演とそれらの人によるパネルディスカッションが行なわれたのだが、傍聴席にいた高橋裕東京大学名誉教授【3】と私が、司会者の竹林征三富士常葉大学教授(風土工学研究所長)から突然指名を受け、感想を求められた。
最近私は伊丹敬之一橋大学教授の「場の論理とマネジメント」(2005年12月、東洋経済新報社)【4】を読み、西田幾多郎【5】の「場所の論理」【6】と清水博の「場の思想」【7】と照らし合わせていろいろと考えていた矢先であったので、ついつい「哲学者はさぼっている!」などと加藤尚武さんには失礼なことを言ってしまった。しかし、哲学者がさぼっているというのは本当で、哲学者は一般
向けの本をもっと書くべきである。私は「中沢新一を見習え!」と言いたいのだ【8】。
 |
 |
 |
| 中流の山間部を流れる四万十川(写真提供:国土交通省河川局) |
|
梼原町の沈下橋(写真提供:梼原町役場) |
伊丹敬之によれば、「場とは、人びとがそこに参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行ない、相互に理解し、相互に働きかけ合い、相互に心理的刺激をする、その状況の枠組みのこと」である。そういう「場づくり」は私たち現業に携わる者の役目だが、やはり必要なのは哲学であって、哲学なしに「場づくり」はできない【9】。
私たちは、「歴史と伝統・文化」を生きている以上、「歴史と伝統・文化」を大事にしなければならないし、そのことのため、過疎地域といえども田舎を切り捨てにしてはならないのである。そういう認識に立ったとき、「流域」というものが重要な意味を持ってくる。かつて、下河辺淳(あつし)の「流域圏構想」【10】というのがあったが、「流域」というものはその地域の「歴史と伝統・文化」を共有する運命共同体と考えることができ、これを中心にさまざまな地域活動が展開されなければならない【11】。
大崎光雄さん(高知県高岡郡檮原町産業振興課長)【12】の研究によれば、吉野川、仁淀川、四万十川など四国の河川はおおむね水源地域の地名がその語源になっているという。海ノ神をあえて山に祀って漁の無事を祈るという「海の民」の慣習がその背景にあるらしい。檮原(ゆすはら)町【13】には竜王宮とも呼ばれる海津見(わだつみ)神社があって海ノ神が祀られている【14】。なお、瀬戸内海の大三島神社【15】には大山祇神があってオオヤマツミの命が祀られているが、「山の民」もまた山ノ神を海に祀るという慣習があったのかどうか。その辺のことはともかく、中越武義檮原町長の話によると、檮原の人びとは海のことを想って殊のほか山を大事にしているようだ。こういうことが「歴史と伝統・文化」の持つ重みというものだろう。おもしろい【16】。
|
|
 |
 |
| 四万十川下流域(写真提供:国土交通省河川局) |
|
吉野川の竹林堤防(写真提供:国土交通省徳島河川国道事務所) |
宮本常一【17】があの名作「土佐源氏」【18】を書いたのも檮原だし、下河辺淳(あつし)が流域圏構想を最初に発表したのも檮原であった【19】。そして今、檮原を中心としたジオパーク構想が浮上してきている。ジオパークとは、その土地の地質や生態系のみならず「歴史と伝統・文化」を学習できる公園のことで、ユネスコ認定の世界レベルのものが今話題になっている【20】。檮原を中心としたジオパーク構想がどういうレベルのものになるかはこれからの問題だが、ユネスコ認定の名乗りをあげたらどうかという声も出ている。私は、そのレベルの如何に係わらず、ジオパークは流域圏構想を具現化する格好のプロジェクトではないかと思っている。檮原のそれはきっと全国モデルになるに違いない。
佐藤直良さん(元四国地方建設局河川部長)【21】の働きかけなどもあってか、最近では、四国の河川もボランティア活動が盛んになってきて、四国河川文化ネットワーク【22】という組織ができた。四万十川流域住民ネットワーク、吉野川流域交流塾、肱川流域会議水中めがね、宿毛元気くらぶ、ひまわり愛護会、NPO法人れいほく活性化機構、NPO法人高知NPO、温知会、善通
寺こどもエコクラブ、新町川を守る会、勝浦川流域ネットワーク、かも研究塾、NPO法人江川エコフレンド、サアーやらんで大楠21、富岡児童クラブ、アドプトネットワーク那賀川、重信川エコリーダー、水をきれいにする会など、河川に関する各種団体の連携組織である。「河川文化」は日本の風土から考えてもっとも重要視されなければならない「文化」であるとの認識にたって、さまざまな河川に関する活動をやっていこうという訳だ。
 |
 |
 |
| 仁淀川の沈下橋(写真提供:国土交通省高知河川国道事務所) |
|
伊野町を流れる仁淀川(写真提供:国土交通省高知河川国道事務所) |
今後、それぞれの流域で、自然や「歴史と伝統・文化」に関する再認識が行なわれていくことであろう。景観10年、風景100年、風土1000年【23】と言われるが、流域のそれぞれの地域が「風土」というものを大事にして、その持続的発展を図って欲しい。そういう状況の中で、私は、特に、過疎化に悩む水源地域に関心があり、それらの地域がジオパークを梃子に、何とか元気を出してくれればと願っている。日本は世界にたぐい稀な自然に恵まれている。そしてさらには、世界にたぐい稀な「歴史と伝統・文化」にも恵まれている。四国ももちろんその例外ではない。四国は四国ならではの自然と「歴史・伝統・文化」がある。
中沢新一の「アースダイバー」【24】を意識しながら、精霊万年【25】を合い言葉に、うん万年前の文化を語り、ジオパークづくりに挑戦しようではないか。四国は黒潮文化の島【26】である。檮原を中心としたジオパークでは、山を語り、海を語ることができる。
私は、日本の「歴史と伝統・文化」の心髄は・・・、「違いを認める文化」だと言ってきているのだが、「違いを認める」ということは、「非対称アシンメトリー原理」が働いているということであり、「流動的知性」が働いていることである。「流動的知性」が働いているという点から言えば、「わび・さび文化」と言っても或いは「イキの文化」と言っても、それらは同じことでもある。それが「日本人の感受性」である。「日本人の感受性」を呼び覚ましてくれるところ、それが檮原である。檮原を中心としたジオパークには是非とも世界のお客さんを呼び込みたいものだ【27】。
(河川プレビューNo.136 冬季号 河川新風土記5.より転載)
季刊「河川レビュー」
【「四国河川文化ネットワーク」結成メンバー関連サイト】
●四万十川流域住民ネットワーク(高知県)
●吉野川流域交流塾(徳島県)
(「にぎわい四国メールマガジンの第11号」で紹介)
●肱川流域会議水中めがね (愛媛県)
(「にぎわい四国メールマガジンの第23号」で紹介)
●宿毛元気くらぶ(高知県)
自然にふれて誰もが元気に!障害者カヌー体験教室なども開催。
●ひまわり愛護会(高知県)
小学生から老人クラブまでが一緒に川や海岸の美化活動。
●NPO法人れいほく活性化機構(高知県)
●NPO法人 高知NPO(高知県)
●温知会(香川県)
自然環境のバロメーター「ホタル」の保護を通して環境保全の取り組み。
●善通
寺こどもエコクラブ(香川県)
● 新町川を守る会
(徳島県)(shinmachi ATRIUM 1st WEBサイト内)
● 勝浦川と棚田の学校「勝浦川流域ネットワーク」
(徳島県)(office空と海WEBサイト内)
●かも研究塾(徳島県)
江川、鴨島公園などで清掃はじめ河川愛護への支援活動など。
●NPO法人
江川エコフレンド (徳島県)
●サアーやらんで大楠21 (徳島県)
三加茂町の国道植樹帯への草花植裁や清掃活動。
●富岡児童クラブ(徳島県)
阿南市富岡小学校区の児童クラブ
● アドプトネットワーク那賀川(徳島県)(アドプト大国・とくしまWEBサイト内)
四万十川清流・環境課(高知県文化環境部)
過去の記事「その三 地域の風土をどう語るか」
(ジオパーク設立活動に関連)
|